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山行報告


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読み物・エッセー : ペルーのおはなし その3 谷川氏
投稿者: admin 投稿日時: 2007-2-24 19:18:33 (1137 ヒット)

その3 谷川氏

ペルーの登山に何度か行っている日本人は、メルカド(市場)に店を出している谷
川さんと知り合いになる。

若い頃は九州の炭坑で働き、ずいぶん乱暴なことをして危ない目にもあったし、や
くざの親分とのつきあいなんかもあったらしい。奥さんとペルーに渡っていくつか
の商売を広げてそれなりの儲けもあったようだ。

体格が良く、彼の年齢としてはかなり大柄な方だ。今80の半ば、かくしゃくとし
ている。たいへんに世話好きな方で、頼まれたことは良く面倒を見てくださるので、
大人数で押し寄せる大学の山岳会などの隊は、恩人みたいに思われているようだ。

1970年にワラス一体に大地震があり、25万人が被害を受け、7万人が死んだ。
このとき谷川氏はワラスに3つの店を持っていたが、2つは土石流に流されてしま
った。上流の氷河モレーンが決壊してワラスの街は壊滅的な打撃を受けたのだ。現
在の店は、その後再建されたメルカドの一角に、おもちゃや文房具を商っている。
単価は低いがそれなりに流行っているようだ。

私を含めて、ワラスを訪ねる日本人を懐かしいと思われることもあるのだろう。お
誘いすればだいたいは酒の席にもつきあってくださる。私が「ここで商売を始める
かも知れない」と話すととても乗り気になっていろいろとアドバイスをいただいた。

定年後の話だから「2007年ですよ」というと、「そんなに長くは生きていないよ」
などと言いながら、嬉しそうな顔になった。この街で暮らすのも悪くないな、と思
ったのは、谷川さんという見本があったからかも知れない。けっこう幸せそうに見
えるのだ。

でも、彼を目標にして、彼のようにやっていくのは、出来ないだろう。
私はマンションの管理組合の理事長を10年以上やっていたこともあり、無償の労
力を提供できる性格かも知れないが、根気強くいやな奴と付き合っていくような性
格ではない。いやだと思ったら「この馬鹿!」と思って付き合わなくなる。


だから、不遜にも「谷川さんがやってこられたことのまねごとでも出来たらいいと
思っているんです」などとほざいたことは、余り本心ではないかも知れないと、自
分でも疑っている。

彼は今、無欲の境地にいるようだ。
例の宗教集団が取りざたされた頃、「解脱」という言葉がよく聞かれた。そこには共
感する響きがある。「解脱」かあ、いいかもしれないなあ、と。
谷川さんには、現世での欲望を捨てたストイックな雰囲気を感じるのだ。今のまま
の私はそうなれないだろう。現世の欲に幸せを大いに感じるから。

でも、80歳を超えたら、周りにそう感じさせるものを持てるかも知れない。
そのようになりたいのかと聞かれると、はっきりとは答えられない。年寄りになっ
ても金を儲けたいとか、いい女を抱きたいとか、そういう気持ちを持っているのは、
生身の人間として、一面では魅力もある。「解脱」ばかりが目標ではない。谷川さん
が娼婦を買っていたりしたら、谷崎潤一郎チックで、それもありかな、とも思うの
だ。 

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