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山行報告


よみもの


10月 : 奥鐘山西壁中央ルンゼ
投稿者: admin 投稿日時: 2008-1-11 18:12:29 (5341 ヒット)

2007年10月7日〜9(土-月)

北ア 黒部 奥鐘山西壁中央ルンゼ

S藤H明、N藤

鉄郎     :ええーっこれが、うわさのあの999号・・・!?
メーテル :そうよ、驚いた?
鉄郎      :だってこんな旧式な列車だとは・・・」
メーテル  :大丈夫よ、鉄郎。耐エネルギー無限電磁バリヤーに守られた超近代化宇宙列車なんだから。

              かけが心
休まる大昔の蒸気機関車にしたててあるだけ・・・。中身は近代的だけど外側は昔のままの日本のSL・・・。
              二度と帰らないお客のためにはこんな型の列車じゃないと駄目なの

鉄郎      :
二度と帰らないって・・・・・? 僕は機械のからだをもらって必ず帰るつもりなんだよ。必ず!」

ナレーション:鉄郎を乗せた銀河特急999号は、その無限軌道にのって走り始めた。どんな星をたずね、どんな所へ行って、どんな姿になって、ここへ帰ってくるのか鉄郎にはわからない。
               銀河鉄道ののびていく彼方には、無限の星の輝く海が広がっているだけだ・・・・・

                                                         銀河鉄道999 第1話「出発(たびだち)のバラード」より




「銀河鉄道999」松本零士

賢治もいいけど、零士も素晴らしい。もちろんオリジナルとして、この世で初めて夜空に汽車を走らせたのは賢治だが・・・。
かつて少年の頃、原作コミックを寝る間も惜しんで夢中で読んでいた。・・・・いや、「いた」ではなく、今でもしっかり繰り返し読んでいる。 
恥ずかしい話だが過去形では無いのだ。マッキ−の盗作騒動で話題になったようだが、ありゃモロだな・・。盗作かどうかはさておき、槙原サイドの対応に問題があると思う。ビバークした夜、夜空を見上げたとき、流れ星や人工衛星と一緒にC−62が走っていたらどれだけ素敵だろう。



−奥金山幻想−

黒部にひっそりと佇むオクガネ。上部壁を合わせれば高低差800mの日本最大の岩壁オクガネ。忘れ去られた
不遇の大岩壁オクガネ。みんなボルダリングやフリーの岩場に行っちゃって、もうこんなところ来る奴いないん
だってさ。埋もれた支点。クラックからは、伸び放題の草。しまい忘れた風鈴のようにハングに垂れ下がってい
るスリング。何を見てきたんだろう。何を待っているんだ?

夏草や兵どもが夢の跡

かつて、この壁の基部の河原の岩小屋は満員になり、テント村ができたこともあったらしい。一頃、秋の連休、
西から東から集まったクライマーが焚き火を囲んで、星を眺めて、語り合い、夢を結んだらしい。昔、欅平の駅
員が、奥鐘山の壁を攀じる人はこちらです、と反対側の出口を案内してくれたらしい。俺を触ってくれ、俺を攀
じってくれと思い焦がれ登攀者を待ち続けるオクガネ。

だけど、こんな支点じゃ誰も来ない!!

どころか、室内壁やゲレンデで純粋培養された箱入りクライマーなら恐怖のあまり失禁するぞー、オクガネ!
元蕕韮隠汽瓠璽肇襯薀鵐淵Ε箸辰董ΑΑΔ修蠅磴△鵑泙蠅世蹇⊂蘆未詫鄒个世韻砲靴蹐茵▲クガネェェー
懸垂支点のボルトがグラグラでハーケン代が馬鹿にならないだろオクガネェェ!
いい加減にしろよオクガネェエ!殺す気かよオクガネ!
雨が降って増水したら帰れなくなるとかそういうハナシじゃなくて、マジで死ぬかもしれないじゃないか!
イワナの餌になるのは嫌だぞ!オクガネ〜!


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2007年秋、俺とH明さんは、猛烈なランナウトに震えながら、栄華を誇った頃のオクガネのクライマーの魂
に邂逅したのだった。
山に行くときは殆んど車を利用しているので、鉄道による長時間の移動は久し振りである。大宮駅23時、英明
さんは既に呑んでおり気持ち良さそうだ。俺は、初めて寝台特急なるものを利用する。

23時30分・大宮発・北陸号、本当は知らない土地を駆け抜ける列車の車窓をじっくりと眺めながら物思いに
でも耽りたいところだが、平日の疲れが溜まっている。少しでも寝ておかなければ。
奥鐘山西壁正面壁、山壁のトポ本に最後の方に載っている、何となくマニアックなイメージがある岩場。「ここに
拓かれたルートはいずれも長く、人工、フリーともに技術度は高い。体力とスピードを要求され、国内屈指の難
度を誇るものばかりで、初心者向けルートは一本も無い。」(山と渓谷社・「日本のクラシックルート」より)

何本かあるルートのなかで、右端の紫岳会ルートと左端の中央ルンゼルートがややレベルが低く、中級者向けと
のことである。だが、そうは言っても、同トポ本によると、中央ルンゼは、技術度・危険度・アプローチと下降
困難度が、それぞれ★★★で、これは今迄登攀した山壁の中で最高のグレードである。ヤバイぞ、びびってきた。
往路の電車の中でヘタレ風に吹かれている俺・・・何とも情けない。ちゃんと帰って来れるのかなぁ。大丈夫かなぁ。

H明さんはすでに爆睡している。寝台車の通路、安酒、煙草を燻らして見つめる車窓。知らない街の見たことも
ない景色。もしも、あの時、あの曲を聴かなければ。もしも、あの時、あいつに出会わなければ。もしも、あの
時、分かれ道で別の方向に進んでいたら。この街に今とは全然違う自分が存在していたのかもしれない。無理そ
うな夢は見ず「普通」を目指してビール呑みながらプロ野球ニュースで一喜一憂する。それも悪くなかったかもし
れない。列車が駅に着き、ホームに降り立つと、なりたかった自分になれている。そんな旅ができたらいいのに。



■10/6 アプローチ
魚津からは富山電鉄、宇奈月でトロッコに乗り換え、欅平に到着。奥鐘山へは改札口とは逆の方向へ歩いてホー
ムの端から線路をたどり,発電所の上から階段を降り,発電所裏側を抜けて河原に出るとのこと。駅員に一言断
った方がいいと思い、改札の駅員に許可を求めるが、これがいけなかった。ダメの一点張り。駅長にもお願いす
るが、こいつも全く使えない。テロ行為がどうたらこうたらとか言い出す始末。こんな山の奥の奥の奥の奥でテ
ロする阿呆がどこにいるんだよ!橋の向こうのガレ場を降りて河原に降りろとのことなので橋の向こうに行って
みたが・・・降りれるわけねえだろ!死んじゃうじゃないか!手本を見せてみろ!

追い出されるように駅を出たので、構内には戻れない。駅の下の足湯の施設の上部草付きをトラバース、改札天
井のルーフ越えなど、いろいろと検討・ルートファインディングをするが、結局、立入禁止の工事現場に入り、
発電所の建物まで下り、何とか河原に降りられた。

奥鐘山西壁基部までは、ここから黒部川を1時間程遡る。渡渉は膝くらい。瞬間腰までが2ケ所ほど。思ってい
たよりあっけなかった。壁が見えてきて、緊張が高まる。第1ハング、第2ハング、クサビの切れ目、眉毛ハン
グ、止り木ハング、ハング、ハング、ハング・・・何段にも連なったハング。もの凄い迫力。帰りたい。へタレ
病を通りこえ、気分は絞首台に向かう死刑囚だ。

中央ルンゼの取り付きをチェックする。トポには「踏み跡がある」とのことだが踏み跡などない。どこにもない。
噂通り本当に登られていないのだ。おおよその見当はついたが、下部ブッシュ帯は苦労しそうだ。
右岸にテントを張るのに絶好の場所があったが、新しい落石が随分と転がっている。どうやら落石は頻繁らしい。
左岸の岩小屋前にテントを張り、薪を拾い焚木を集める。水は、本流は汚そうなので10分ほど上流に遡ったと
ころで出合う志合谷(しあいたん)からとってくる。
俺もH明さんも、暗くなるまでずっと壁を見上げていた。明日はあの壁を舞うのだ。夕闇に包まれた西壁は美し
かった。





■10/7 中央ルンゼ 登攀
取り付きからブッシュに突っ込み,左上の後,直上。潅木・ヤブを掻き分け露岩まで。ここでアンザイレンする。
ここからクサビの切れ目と呼ばれる第一ハングの弱点を目指し、掘銑元蕕離好薀屬魃上する。

1P (N藤)
2P (H明)
3P (N藤)
4P (H明)

ピンは殆んどない。あっても見事に腐っている。ビレイポイントは潅木。今まで登った岩壁のなかで、ぶっちぎ
りのランナウト。トポには「WUにちょうど良い」とか書いてあったが、とてもそんな気分にはなれない。この
グレードでも全く油断できない。

5P(N藤) 后 複機ィ掘
第一ハングの弱点の被り気味のジェードル「クサビの切れ目」を突破する。デシマルでは5.7とのことだが・・
絶対ウソ。怖いメチャ怖い。クサビの切れ目の直下までの右上トラバースのランナウトで神経がかなり消耗。
クサビの切れ目は錆びたアングルハーケン1本のみ。カムでランニングを取り深呼吸して離陸。トポには「ガバ
が多く安心」と書いてあるが、ガバが全て浮いており、良いスタンスが無い。怖さを誤魔化すために吼える。3
手ほど甘めのカチをつなぎ木の根をつかんで一安心。数値化されていない恐怖感。この厳しさはいったい何なん
だ・・・・。




6P(H明) 検
草付きまじりのスラブを直上。ピンは少ないがホールドはしっかりしており何てことはなかった。オアシスのよ
うなピッチ、安らぎポイントである。(20m程ランアウトして、細いリッヂに齧り付いてるときは命尽きたかと
思いました。吐き気がするほど恐ろしかったです。・・H明談)

7P(N藤)  A1
V角と呼ばれる垂直の凹角。コーナークラックをフリーで行けば5.8だそうだが、湿っていてコケていてブッシ
ュもひどい。それ以前にこの精神状態での割れ目は敬遠したい。迷わず初登ラインの左壁の人工を選ぶ。支点が
遠くややめんどくさいが、ツイタテのダイレクトカンテに比べれば幾分マシである。
しかし、アブミトラバースの後フリーに切り替わる箇所は、ピンを1本見逃していたこともあり、かなり怖い思
いをした。涙を目に溜めながら逡巡する。黒部の流れは遥か彼方の足元の下にある。

8P(H明)   A1 振り子
フリーだと5.9のスラブとのことだが、きっと冗談だろう。5.90の間違いに違いない。小川山の10Cのス
ラブのほうが全然簡単そうだ。、ここも初登ラインの人工を選ぶ。因みに、振り子トラバースというワザを使わな
いと突破でき」ない。15メートルほど直上し、直上最終支点からトップ(H明さん)が斜めに突っ張りながらロワ
ーダウンして左のジェードルにたどり着き、そこからブッシュのクラックに沿って登っていく。途中で落ちると
空中遊泳大会になるのでかなりの緊張を強いられる。

次にセカンド(俺)が直上最終支点まで行き、ランナーを外し、正に振り子のように壁を蹴り横走りしてジェード
ルに飛びつく。この高さでこの動きを要求するとは・・。英明さん、泣いてもいいですか?ここで大泣きしても
いいですか?もうーイッパイイッパイです。マジ怖いです。マジ吐きそうです。MajiでGeroする5秒前!by広
末涼子。いかん、頭がおかしくなってきた。

「い、い、行きむぁ〜しゅ」口がまわってないじゃんか。アムロ・レイか俺は!ジェードルにたどりつき、へっ
ぴり腰でクラックを攀じる。ビレイ点についたときはもう心底ヘロヘロになっていた。(H明はここのリードの後
廃人になりました。目前の垂壁に何もなくなった時、振り子の意味がわかりました。要するに眼下250mの谷
底に向かって、気合入れて飛び降りてみろってなことなのです。・・H明談)

ここから先、下部岩壁の終了点の屋根付きバンドまではあと4ピッチ。元蕕離好薀屬広がっている。元蕕箸
えども壮絶なランナウトらしい。
「H明さん、どうですか?核心も越えてるし、・・降りませんか?俺的には、もう・・充分です。」「おい!俺!ち
っとも充分じゃないぞ!ルート終了点まで到達していないじゃないか!」・・だけど凄まじい緊張状態が続き、か
なり疲弊しているのは事実だ。「・・そうだね。上まで行くと、懸垂のとき暗くなってヤバイかもね。降りるか。」
決まるのは早かった。こわばり続けていた顔がゆるむ。普段の生活では得難い解放感に包まれる。今回はH明さ
んもびびっていたようだ。途中のテラスでは馬鹿話の一つも出なかったから。




「・・・とりあえず、握手。」
「・・・ぉっお疲れ様でした。」

河原まで10ピッチくらいみておけばいいのか。事故はこういうときに起こりやすい。気を付けなければ。
最初の懸垂は、俺が先に降りたのだが支点の残置ボルトが1本すっ飛んだ。もう1本の残置ボルトと補強のため
に打ったハーケンで事なきを得たが・・。

やっぱ降りたくねえ!だけど登りたくねえ!ずっとここに居たいぞ!残置は全く信用できないので、ハーケン、
5mmロープスリングで支点を補強、いや、作り直しながらラペリングを続ける。クサビの切れ目から下は、中央
ルンゼルートを外れ一致和合ルートのラインに合流するのだが、支点が無い。50mロープで懸垂するのならこ
の辺りに支点が無いとおかしい。ハーケンを打つにもよいリスが無い。ボルト打ちは面倒くさいし、草付やドロ
で埋まったのかもしれないので辺りの泥や草の発掘作業を始める。果たして、支点は埋まっていた。

OH!YEAH!下降支点ゲット!って宝探しゲームかよ!残置ボルトを狂ったようにテスティングしスリング
を付け替え,執拗にテスティングしてから降りる。
一致和合の下部は支点が安定しており、なぜかぺツルも混入している。(数年前フリー化を試みたクライマーがい
るらしい。)無事、河原に着地し、黒部ダムの放流で少し増水した流れを渡り、テン場にたどり着く。16時過ぎ
だった。ああ・・死ななくて良かった。なかなかやってくれるじゃねえかよーオクガネ。トポのグレードと体感
グレードが違いすぎるぞーオクガネェー!まあいいや。今回はこのくらいで勘弁しておいてやらぁ。

夜。星たちが、ざわめいていた。天の川のせせらぎが聴こえた。谷底から見る四角く切り取られたような空に。
ワインと焚き火の煙で少しだけ酔っ払った。今年、あと2本残っている。マルトーの緑と明星フリースピリッツ。
(結局、この2本は天候などの理由で中止になってしまったが・・・)
俺は贅沢になってしまったらしい。ただ生きていることに満足せず、ちょっと間違ったら普通に死ねるようなこ
とに首を突っ込んでる。

「H明さん、俺、またこの壁登りたいんすよ。来年、紫岳会ルートやりませんか?」
「いいねえ。それなら初日に2ピッチ目まで登ってザイルをフィックスすれば余裕できるじゃん。」
「実は、俺の野望はそれだけじゃないんですよ!浦島太郎やOCCもターゲットに入っているんですよ!いつか
やりませんか?」

山壁の話題は尽きない。H明さんには本当にお世話になった。これからもなるだろう。
たくさんの人とロープを組みたい、とも思う。ぶなの会は山壁をやる人は少ない。俺が少し盛り上げるか、と、
エラそうに思ったりもする。

課題が見えてきた。フリーのグレードアップ、人工のスピードアップ、ロープワーク・支点作成の的確さ、体力
とスタミナ増強、へタレ症克服、割れ目嫌いを治す。そして何よりもスキルアップ。
ひとつひとつ、掲げた夢をかなえていく。目標ルートを潰していく。いつか未踏のラインを創作する。多分、死
ぬまで夢が尽きることはないだろう。叶うか叶わないかはわからないけど。

10/8 脱出
強い雨の音で目が覚めた。さっきまで星だらけだったのに。月曜には天気が崩れだすという予報だったが・・・
崩れすぎだろ!星空に安心してしまっていた。

明け方近くには雨の音はさらに強くなっていた。行動可能な明るさになるのを待って荷物をまとめ、テンバを出
発。いや、脱出。激しい雨の中、薄暗い西壁に数百メートルの滝が何本もかかり、物凄い景観を作り出している。
水深は増し流れはかなり速くなっている。まだ茶濁してないのが唯一の救いだ。やばいぞ、急がねば。急流の中、
ザイル渡渉を繰り返す。発電所が見えてきて胸をなでおろす。

7時に欅平駅に到着。駅から流れを見下ろすと、黒部川は、ココア色の大洪水になっていた。本当に間一髪だっ
た。少し遅れたいたらマジで危なかった。



この雨でオクガネは消滅したかもしれない。ベストシーズンの連休に我々1パーティーしか来ない壁。これが時
代なのか?それとも、あの壁は本当に存在したのか?夢の中で空中楼閣を登ったのかもしれない。きっと蜃気楼
なんだ。オクガネよ、また来年会いにきてやっから、待っててくれよな。

そして、少し新しい自分になったような気がして、安心して帰路についた。疲れ果てていたはずなのに、列車の
中でモチベーションが高まり、夜、Bパンプに行って登り込む俺だった。

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